3.実施する② 医師による面接指導
2016/10/13
ストレスチェック制度における取り組みの2つ目は、医師による面接指導です。
これは、ストレスチェックを受けた者の中で、高いストレス状態にあり、医師が面接指導を必要と判断した場合、本人の申し出によってそれを行うことが義務づけられているものです。
そのため、事業者としては、該当する対象者がいれば、必ず実施しなければいけません。
まずは、何をしなければいけないのか、次の図*から全体像を把握しましょう。
*厚生労働省「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」では、次の通りの流れとなっています。
本サイトでは、医師による面接指導を実施するための手順を、1.医師による面接指導の実施と、2.医師による面接指導の実施後に分けてご説明します。
1.医師による面接指導の実施
ストレスチェック制度においける面接指導では、次のいずれかに該当する医師が行う必要があります。
(1)事業場選任の産業医*
(2)事業場所属の医師
(3)外部委託先の医師
また、その面接指導を担う医師には、次のような背景の違いはあります。
(1)精神科の医師か、あるいはそれ以外の一般診療の医師か
(2)産業医資格を有している医師か、有していない医師か
(3)常勤の産業医か、あるいは非常勤の産業医か
医師による面接指導の実施手順
step | 内容 | 担当者 | 事業者 | 実施者 | 従事者 | 受検者 | 面接者 |
1-1 | 面接指導の対象者である旨を通知 | ★ | ◎ | ● | |||
1-2 | 面接指導の申し出の勧奨 | ★ | ● | ◎ | |||
1-3 | 対象者からの面接指導の申し出に対応 | ● | ◎ | ★ | |||
1-4 | 対象者から面接指導の申し出が行われない場合 | ★ | ● | ◎ | |||
1-5 | 医師による面接指導の実施 | ◎ | ● | ★ |
*1)ストレスチェック制度に関わる役割を担う者は、以下の通りに分類しています。
企画者:ストレスチェック制度全体の企画・運用・管理を担う者
事業者:管理監督者を含む事業者
実施者:産業医・保健師等
従事者:事業者から任命された、実施の事務に従事する者
受検者:ストレスチェックを受検した者
面接者:受検者からの希望により面接を実施した医師
*2)各自が果たす役割について、貢献レベルを表した印をつけましたので、一つの目安にしてください。
(=★メイン、●主力、◎サブ、空白は必要に応じて協力)
1-1 面接指導の対象者である旨を通知
厚生労働省の実施マニュアルでは、ストレスチェック結果の状態が、高ストレスであり、かつ医師の面接指導が必要と医師が判断した対象者に対しては、以下の旨を知らせることが必要とされています。
■ 面接指導を申し出た場合は、ストレスチェックの結果を事業者に提供するということに同意したとみなされること。
■ 面接指導の結果、必要がある場合は、就業上の措置(時間外労働の制限、配置転換など)につながる可能性があること。
■ 面接指導を申し出たことに対して、不利益な取り扱いをすることは、法律上で禁止されていること。
■ 面接指導に要する費用は事業者が負担し、従業員が負担する必要ないこと。
1-2 面接指導の申し出の勧奨
ストレスチェック制度における医師の面接指導は、なるべく面接につながるようにすることで、より早く問題に対処することになります。そのため、面接指導も積極的に活用できるような体制や風土づくりをしていくことも大事です。
しかし、医師の面接指導ということでは、まだまだ特別な感じや弱い自分と思われるのを気にしてしまうことがあるかもしれません。よって、医師の面接指導は、正直、今の現状としては多くはないかもしれません。
ただ、医師の面接指導は本人の高ストレス状態を早く回復させることにつながりますので、そのような理解を少しずつでも広めていくこともメンタルヘルスを充実させるためには必要だと思います。
そのために、現行の法律では、実施者および従事者による対象者への面接勧奨は、認められているため対象者への勧奨を行いましょう。もちろんその際には、十分に配慮して対応することを心がけて下さい。
と言いますのも、ストレスチェック制度での面接指導は、強制で受けさせるものではないため、あくまで対象者自身からの申し込みで行うことになっているからです。
このような背景から、対象者が面接指導を申し出やすくするための3つの勧奨の方法が、厚生労働省からの実施マニュアルでは示されています。
(1)実施者が個人のストレスチェック結果を本人に通知する際、面接指導の対象者であることを伝え、面接指導を受けるよう勧奨する方法。
(2)個人のストレスチェック結果の通知から一定期間後に、実施者が封書又は電子メールで本人にその後の状況について確認し、面接指導の申出を行っていない者に対して面接指導を受けるよう勧奨する方法。
(3)面接指導の申出の有無の情報を、事業者から提供してもらい、すでに事業者に対して申出を行った労働者を除いて勧奨する方法。
このように実施者や従事者は、対象者に対して丁寧に勧奨するようにして、プライバシーを守りましょう。特に、事業者や上司である管理監督者であっても、事前に対象者からの承諾なしには、面接指導の対象者であるということを把握していはいけないことになっていますので、ご注意ください。
つまり、事業者や上司は、本人からの面接の申し出がない限り、高ストレス者を知ることができません。そのため面接希望があって初めて理解することになります。
1-3 対象者からの面接指導の申し出に対応
ストレスチェック制度において、対象者から医師による面接指導について申し出があった場合は、必ずその機会を設けなければいけないことになっています。
厚生労働省の実施マニュアルでは、医師の面接指導の実施方法について、次の4つがポイントが記されています。
(1)事業者は、面接指導の申出をした労働者が、面接指導対象者に該当するかを確認します。
(2)面接指導を行う医師を決定し、面接指導の日時・場所を調整します。(→*)
(3)医師による面接指導を行います。
(4)面接指導結果の報告を受け、必要に応じ就業上の措置を講じます。
(→*)
ストレスチェック制度における医師の面接指導を行うにあたっては、その日時の調整についても十分に配慮して調整することが望まれています。そのため、なるべく第3者にわからないような方法で個人のプライバシーを確保しながら、面接日時の調整を行いましょう。
一方では、当該対象者の上司に対しては、面接指導の日時が決まり次第、対象者が面接指導を受けられるようにするために、業務上の配慮をするよう依頼しましょう。
1-4 対象者から面接指導の申し出が行われない場合
医師面接を申し出ない対象者に対しては、そのまま放置することなく、その他の産業保健スタッフとつながるように促しましょう。やはり、医師による面接指導の対象である旨を通知しても、自ら申し出ない対象者は想定されます。
しかしながら、何らかの事情で高ストレスの状態であるため、少しでも早くその状態から改善されることが望まれます。
そのため、医師以外の産業保健スタッフ(例えば、保健師、看護師、精神保健福祉士、産業カウンセラー、臨床心理士等)とも相談できる窓口をつくるなどの体制も合わせて整備することは望まれます。
そのようにして、相談につながった場合では、その対象者の情報を把握した産業保健スタッフは、産業医と連携しつつ対応しましょう。
但しその際には、原則として当該対象者との間で、情報の共有のあり方について確認をとりながら、他者に提供するなどの対応をしましょう。もちろん、当該対象者の健康状態で急を要する場合は、この限りではありません。
1-5 医師による面接指導の実施
ストレスチェック制度における面接指導では、以下の6項目について医師が対象者の状態を確認することが、厚生労働省の実施マニュアルで示されています。そのため、面接指導を受けることになる対象者からストレスチェックの調査票結果のコピーを面接指導前に提出してもらい、事前に状況を把握しておきましょう。
1-5-1 ストレスチェックの3項目
(1)職場におけるストレスの原因
(2)心身のストレス反応
(3)職場における他の労働者からの支援
1-5-2 その他の項目
(4)勤務の状況
・労働時間、業務内容等あらかじめ事業者から入手しておきます。
・ストレス要因となり得る、人間関係、業務や役割の変化等を把握します。
(5)心理的な負担の状況
・上記のストレスチェックの3項目をもとに、抑うつ状態などを特に把握します。
・必要に応じて、うつ病のスクリーニング検査(CES-D)や、構造化面接も。
(6)その他の心身の状況
・過去の診断結果や現在の生活状況を把握します。
・必要に応じて、うつ病やストレス関連疾患を念頭に置いた確認を行います。
1-5-3 医師の面接指導のポイント
面接指導を行う医師は、当該対象者から以上の6項目を中心に体調面・仕事面を確認し、状態を評価した上で、次のことを医学上の点から指導を行うことになります。
□. 保健指導の内容
・ストレス対処技術の指導
・気づきとセルフケア
□. 受診指導の内容
・必要に応じて、専門機関に受診を勧奨する
・その後の経過観察のため、再面接指導を指示
2.面接指導の実施後
ストレスチェック制度における医師の面接指導を行った後は、以下にあげる5つの項目を、必要に応じて実施します。そのため、情報の取り扱いは十分に気をつけましょう。
なぜなら、面接指導の実施後には、健康上の理由等から必要に応じて本人への配慮を要することがあるからです。そのため、本人からの情報だけでなく、医学的な情報や職場・組織における情報なども共有し、検討することになりますので、情報の取り扱いには十分に気をつけて対応しましょう。
医師による面接指導の実施後の手順
step | 内容 | 担当者 | 事業者 | 実施者 | 従事者 | 対象者 | 面接者 |
2-1 | 面接指導の結果の記録 | ● | ★ | ◎ | |||
2-2 | 医師からの意見を聴取 | ★ | ◎ | ★ | |||
2-3 | 就業上の措置の実施(必要の場合) | ★ | ◎ | 〇 | ● | ||
2-4 | 相談機関、専門家の紹介(必要の場合) | ★ | ◎ | 〇 | ● | ||
2-5 | 経過観察と具体的な対応(必要の場合) | ★ | ◎ | 〇 | ● |
*1)ストレスチェック制度に関わる役割を担う者は、以下の通りに分類しています。
企画者:ストレスチェック制度全体の企画・運用・管理を担う者
事業者:管理監督者を含む事業者
実施者:産業医・保健師等
従事者:事業者から任命された、実施の事務に従事する者
受検者:ストレスチェックを受検した者
面接者:受検者からの希望により面接を実施した医師
*2)各自が果たす役割について、貢献レベルを表した印をつけましたので、一つの目安にしてください。
(=★メイン、●主力、◎サブ、空白は必要に応じて協力)
2-1 面接指導の結果の記録
ストレスチェック制度における面接指導を行った医師は、その結果を以下の事柄について記録を残す必要があります。
結果を記録する様式については、任意のもので構いませんが、以下7項目を入れる必要があります。
(1)面接指導の実施年月日
(2)当該労働者の氏名
(3)面接指導を行った医師の氏名
(4)当該労働者の勤務の状況
(5)当該労働者の心理的な負担の状況
(6)その他の当該労働者の心身の状況
(7)当該労働者の健康を保持するために必要な措置についての医師の意見
また、厚生労働省の実施マニュアルでは、以下の様式が用意されているので、この書式をそのまま使用ができます。
『面接指導 結果報告書及び自己措置に係る意見書』
一方で、面接指導を行った医師は、事業者に対して当該従業員の健康の確保をするために必要な情報を提供する場合は、必要最小限にしなければいけません。
そのため、当該従業員の診断名、検査値、具体的な訴えの内容や、医学的な情報は、事業者には提供してはいけないことになっていますので、情報の取り扱いには注意が必要です。
2-2 医師からの意見を聴取
ストレスチェック制度における医師の面接指導が行われた後、事業者は当該の医師から速やかにその意見を聴かなければいけないことになっています。具体的には、以下の3点です。
2-2-1 意見を聴く医師
まずは、面接指導を行った医師からの意見を聴きましょう。また、その医師が事業場外機関の所属の場合、社内の産業医にもあらためて意見を聴くことが望まれます。その理由としては、事業場外の所属の場合ですと、やはり当該従業員の労働環境や職場環境の実態を十分に把握できているわけではないからです。
そのように、本人と面談をした医師と、社内の産業医の双方の意見を聴くことによって、本人に対する適切な支援につながります。
2-2-2 意見を聴く時期
事業者が面接指導を行った医師から意見を聴く時期としては、その面接指導が行われてから1カ月以内が望ましいとされています。ただし、当該従業員の健康状態を鑑みて、早急に対応しなければいけない場合もあり得ます。
2-2-3 意見を聴く内容
大きく分けて、以下の2つ。
(1)就業上の措置に関すること。
A:通常勤務
B:就業制限(勤務・残業時間の短縮、異動、配置転換、深夜業からの変更等)
C:要休業(療養のため、一定期間の休みが必要)
(2)職場環境の改善に関すること。
作業環境、過重労働対策、メンタルヘルス体制、人間関係、労務関係など上司や、人事労務との連携が必要な場合が想定されますので、慎重に意見を聴いて対応することが望まれます。
2-3 就業上の措置を実施(必要に応じて)
事業者は、医師からの意見の聴き取りを踏まえ、必要に応じて就業上の措置を実施して、当該従業員の健康を確保する必要があります。その際には、以下にあげられるような人たちからの意見も聴くことができると、より多面的に理解でき、適切な対応につながります。
面接指導を行った医師以外に
・産業医や、保健師等の産業保健スタッフ
・当該従業員の上司や先輩
・人事労務スタッフ
何より対象からも意見を聴き、よく話し合った上で、本人からの了解が得られる中で対応することが望ましいとされています。
同時に、就業上の措置になった場合、特に当該従業員の管理監督者には、その目的や見込み期間などを含め、その情報は、プライバシーに配慮しつつもきちんと共有することが望まれます。それは、日々の労務管理をする上で、管理監督者は、キーマンになるからです
そして、その就業上の措置の後、本人の経過を観察しながらストレス状態が改善された場合には、産業医による面談をするなどして、その意見を踏まえ適切な対応をとることが望まれています。
2-4 相談機関、専門家の紹介(必要に応じて)
ストレスチェック制度による医師の面接指導は、うつ病等、心の病を診断することが目的ではなく、セルフケアの促進と、専門の相談機関への受診を促すことです。そのため当該従業員の状態によっては、専門の相談機関への受診が必要と思われる場合が想定されます。
しかしながら、対象者にとっては、専門の相談機関、例えば、精神科・心療内科等への受診に対しては、それらの診療についてよく知らないことから、抵抗を示すことも想定されます。そのため、専門の相談機関への受診を促す際には、言葉使いには、十分気をつけましょう。
厚生労働省の実施マニュアルでは、専門の医療機関への受診の進め方の例として、以下のように取り上げられていたのでご紹介します。
例1 話をよく聞いた(傾聴した)後に受診を勧奨
「心配ですね。一度、専門の病院へ紹介しましょうか。」
「まずは眠れることが大事だから、睡眠の相談に行ってみてはいかがでしょう。」
「疲れやすいのは身体の不調のサインかもしれません。専門医の診察を受けてみませんか。」
「ストレスがたまると体調を崩しかねないので、大事にならないうちに受診してみませんか」
「今の不調が病気のせいなら治療すれば治るのだから、専門医に診てもらいませんか」
例2 受診を拒否する場合
「健診結果も併せてみると、身体症状がありますので、受診が必要ですよ。」
「何ともないかもしれませんが、念のため早めに受診して確認しておいてはいかがでし ょう。」
「紹介状を書いて、状況を十分連絡しておきますので、心配しなくていいですよ」
例3 不調自体を否定する労働者に対して
「あなたのことを心配しています。放っておくと病気になることがありますから」
「体に現れる SOS には耳を傾けた方がいいですよ。自分を大事にしてください」
2-5 経過観察と具体的な対応(必要に応じて)
就業上の措置が行われた場合、その後は、事業者をはじめ、実施者や対象者の管理監督者など関係者が互いに連携を取って、きちんと当該従業員をフォローしましょう。なぜなら、不調者への対応は、就業上の措置をとったからと言って、それだけで状態が解決するわけではないからです。
特に、不調の原因が仕事に関わることであれば、職場への適応が課題となっていることが多いです。そのため、日々の経過を観察しながらも、定期的に本人との面談を持つなどして、仕事への課題を含め改善するような対応が必要になってきます。
一方で、周囲の職場のメンバーも、その本人への対応を会社がどのようにとっているのか、実は気にして見ています。そのため、就業上の措置が本人にとっても、周囲にとってもより適切に行われる取り組みであると理解を促すためにも、きちんとしたフォロー活動を行う必要がありそうです。