2.準備する② ストレスチェック制度「導入の手順は、10ステップで!」
2017/02/07
ストレスチェック制度を導入・実施するにあたっては、”いろいろなこと”が必要となります。しかし、初めての取り組みであるため、その”いろいろなこと”がわかりづらいです。そのため、ここでは実務担当者が担うべきことになる”いろいろなこと”を、10個に分けて、手順をつくりました。誰が何をすべきか、わかりやすくするためです。
これをステップ通りに進めていけば、最終的には、導入に必要な準備が完成するようになっています。すでに導入した場合も含め、ストレスチェック制度がよりスムーズに運用される手順をシンプルにお伝えします。導入や準備のマニュアルとしてご活用ください。
目次
■導入手順の早見表
企画者 | 事業者 | 実施者 | 実施事務 従事者 | 関係者 | ||
1 | ストレスチェック制度を理解しよう | ★ | 〇 | ● | ||
2 | 実務を担う体制をつくろう | ★ | ● | 〇 | ||
3 | 会社として取り組む方向性を決めよう | 〇 | ★ | ● | ||
4 | 調査票を検討しよう | ● | ★ | 〇 | ||
5 | 事業者からの方針表明を充実させましょう | 〇 | ★ | ● | ||
6 | ストレスチェック制度のやり方を決めておこう | ★ | 〇 | ● | ||
7 | 衛生委員会での調査審議は、3ステップで | ★ | ● | 〇 | ||
8 | 実施規程をつくろう | 〇 | ★ | ● | ||
9 | 従業員に”しっかり”周知しよう | ● | ★ | 〇 | ||
10 | ストレスチェック受検日の当日に備えよう | ● | ★ | 〇 |
★とは? メインで行う人
●とは? サブで行う人
〇とは? 補佐的に関わる人
空白? 関係する人全員
【step-1】 ストレスチェック制度を理解しよう
ストレスチェック制度を導入するにあたって、具体的に理解しておかねばならない点は、以下の3点です。
1-1 ”実態の流れ”を理解する
厚生労働省から示されている『ストレスチェックと面接指導の実施に係る流れ』を確認しておきましょう。本サイトの【1-4-2. 流れから理解する導入のポイント】でもご紹介しています。
1-2 衛生委員会で調査審議が必要な11項目を理解する
厚生労働省から示されている『労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル(略して、実施マニュアル)』に示されている点を確認しておきましょう。本サイトの【2-3.】でもご紹介しています。
1-3 実施規定に必要なことを理解する
厚生労働省から示されている『実施マニュアル』に示されている点を確認しておきましょう。本サイトの【2-4.】でもご紹介しています。
【step-2】実務を担う体制をつくろう
『実施マニュアル』では、実施体制のイメ-ジが以下のように示されています。
【誰が】 【何をするか】
事業者 ➡ 実施の責任、方針の決定
担当者 ➡ 実施計画の策定・管理
実施者 ➡ 企画・結果の評価、実施の事務、守秘義務あり
実施事務従事者 ➡ 実施者の補助、実施の事務、守秘義務あり
これを踏まえて、以下の3ステップで実務を担う体制をつくりましょう。
2-1 事業者は、まず担当者を決めましょう
担当者とは言わば、ストレスチェック制度の導入・実施において、“総合プロデューサー”のような役割を担う人です。ストレスチェック制度の担当者を決めましょう。
例えば、人事労務の管理監督者でもこの役割を担うことは可能とされています。社内外の関係者との調整がメインとなりますので、会社の実情をよく知る人財が望まれます。
2-2 コアメンバーで大枠を検討しましょう
各社様で置かれている状況は異なりますが、イメージとしては以下です。ストレスチェック制度の大枠・方向性などは、コアメンバーで検討して、効率的に進めましょう。
例えば、次の通りです。
→【担当者 + 実施者 +α(実施事務従事者 or 外部の専門家・機関)】
2-3 フルメンバ-で進めていきましょう
職場の第一線の声なき声も含めて、職場の声を反映させるために、安全衛生委員会でしっかりと調査審議をしながら、制度の導入・実施を進めていきましょう。
例えば、以下です。
【担当者 + 実施者 + 実施事務従事者 + 安全衛生委員 + 外部の専門機関等】
【step-3】会社として取り組む方向性を決めよう
ストレスチェック制度に取り組むにあたっては、3つの大きな方向性があります。そのため、最終的には、以下に示す3つのうちから、1つを決めて取り組むことになります。詳しくは、【3章:実施する】でお伝えしますが、まずは3つの方向性を確認しておきましょう。
3ー1 必須コース
【ストレスチェック(医師面接含む)】
*今回の義務化となった取り組みで、必ず実施しなければいけません。
*医師面接は、産業医の先生にお願いできると、スムーズに進むでしょう。
3-2 プラスαコース
【ストレスチェック(医師面接含む)+集団分析】
*集団分析は努力義務ですが、組織向けの取り組みにも活用できます。
*集団分析を行うには、受検率が高くないと適性に分析することができません。
*集団分析の精度をあげるためには、受検率を上げる必要があります。
3-3 フルコース
【ストレスチェック(医師面接含む) + 集団分析 + 改善活動】
*ストレスチェックの受検率が高いほど、集団の状態がわかるので、適切な改善活動に
つなげやすくなります。
*改善活動を行うには、関係者の理解と協力、そしてそのための時間が必要になります。
*改善活動まで実行できると、会社にとっていい効果を得られるとの先行研究・事例が
多くあがっています。次章【3-3】でご説明します。
【step-4】調査票を検討しよう
ストレスチェックを行うにあたっては、必ず調査票を使用しなくてはいけません。一律に指定されているものはなく、以下の3タイプから任意で調査票を決める必要があります。その調査票を決めるにあたっては、まずご自身で試して実感されることをお勧めします。
4-1 厚生労働省が推奨している調査票を使う
職業性ストレス簡易調査票の57項目
*今は、この57項目が調査票のスタンダ-ドとなっています。
*23項目の簡略版もあります。
4-2 民間の専門会社が提供している調査票を使う
各社さまとも、基本的には厚生労働省の57項目はそのまま使用しているようです。また、何らかのサービスをプラスさせた調査票を提供しているようです。
例1)57項目 + 追加質問(いきいき度、ストレス耐性、フィジカル状態等の把握)
例2)57項目 + 結果の文書を工夫している
例3)57項目 + 集団分析のレポ-ト付き
4-3 調査票を独自に開発して使う
以下の条件を満たしていれば、調査票を自社で独自に開発して、使用してもよいとされています。
①以下3つの領域に関する項目が含まれていること
(仕事のストレスの原因、ストレス反応、他者からの支援)
②一定の科学的根拠が示せること
③性格や適性の項目を含めるのは、不適切
④希死念慮や自傷行為に関する項目は、対応体制が不十分なら不適切
以上のように、独自開発では、専門的な知識や科学的根拠が必要となるので、導入のハードルは高いようです。
【step-5】事業者からの方針表明を充実させましょう
方針表明を行う目的は、社員の理解を広げること。心の健康について社員は、その必要性を感じてはいるものの、しかし、実際にアンケーをやることには不安や戸惑いも少なくありません。
そのため、そんな社員の不安を取り払い、ストレスチェック制度への理解を広める上で、事業者からの方針表明は、大きな意味を持ちます。以下の3点を踏まえて、方針表明を充実させましょう。
5-1 方針表明の”機会”をつくる
事業者からの方針表明は、実施しましたか?初年度にあたる今年は、きっと多くの事業所において、事業者からの方針表明があったことと思います。ストレスチェック制度の初年度にあたるため、ストレスチェック指針でも、事業者からの方針を表明することが求められています。
特に、年始や年度初めの節目の時期に方針の表明をすると、その後のスケジュ-ルにつながりやすいことから、推奨されていました。そのため、もし、まだ実施していない場合は、早めに方針を表明して社員の理解を広げましょう。
そして、すでに方針表明や、ストレスチェックを導入・実施した会社さまにおいては、来年も是非引き続き、事業者からの方針表明があると、社員の安心感もさらに広がるのではないでしょうか。
5-2 方針表明の”構造”をつくる
わざわざ方針表明を実施するなら、その“構造”をしっかりつくってみてはいかがでしょうか。なぜなら、方針表明をする機会に、事業者からの表明に加え、実施者や実施事務従事者、あるいは担当者からも一言、挨拶があると、社員は会社の想いを感じられるからです。社員からの理解と関心が高まるように、会社全体として取り組む制度であることが、伝わるような”構造”となるよう工夫されてはいかがでしょうか。
例えば、ストレスチェック制度の方針表明における構造としては、このようなイメージです。
⓪司会者・・・・会の開催趣旨を説明
①事業者・・・・ストレスチェック制度の概要を説明
②実施者等・・・具体的な取り組み方の説明
③事務方・・・・運用上での諸注意、スケジュール
5-3 方針表明の“内容”をつくる
では、方針表明の際には、誰が何を話すのか、その“内容”をあらかじめつくっておくことをお勧めします。なぜなら、社員は、事業者が方針表明で何を話してくれるのか、その内容に注目しているからです。
難しいことや、長く話す必要はありません。たった一言、事業者からの心のこもった言葉があればいいかと存じます。心の健康づくりのために導入される制度なので、“心”ない言葉では、いくらきれいな内容でも社員の心には、届きません。社員が安心感を感じられる、明るいメッセ-ジを送りたいものです。詳しくは、【第7章】でご紹介します。
【step-6】ストレスチェック制度のやり方はあらかじめ決めておこう
ストレスチェック制度では、大きくわけて3つのことをやることになっています。その一つが、義務化として、必ずやらねばいけない2つの取り組みがあります。そして、もう1つは、努力義務として推奨されている『集団分析』です。
そのため、これら3つについてのやり方をあらかじめ決めておきましょう。
6-1 ストレスチェック』(必須)
調査票を使った『ストレスチェック』を、どのような手順でやるのか、具体的なやり方をあらかじめ決めておきましょう。詳しくは、次章【3-1】でご紹介します。
6-2 『面接指導』(必須)
高ストレス者が発生した場合、誰がどのように対応し、また医師の面接指導につなげればいいのか、あらかじめそのやり方を決めておきましょう。詳しくは、次章【3-2】でご紹介します。
6-3 『集団分析』(努力義務)
集団分析というのは何をどのようにするものなのか、そしてその後の職場環境のための改善活動は、どのように実施したらいいのか、実施をしない場合でも、是非、内容をご理解しておくことをお勧めします。詳しくは、次章【3-3】でご紹介します。
【step-7】 衛生委員会での調査審議は、3ステップで行いましょう
ストレスチェック制度は、衛生委員会で調査審議を行う必要があります。しかしながら、衛生委員といえども、ストレスチェック制度のことを十分に理解できていない現状もあるのでは。そのため、衛生委員会でしっかりと調査審議を行えるよう、以下の3ステップで進めてみてはいかがでしょうか。
7-1 教育
厚生労働省からストレスチェック制度の理解を深めるべく、各種資料が公表されています。そのため、まずは、担当者や実施者等が制度の理解を深め、そして、委員の方々にも制度への理解が広がるように、教育をしてはいかがでしょうか。詳しくは、【第9章】の情報源でご紹介します。
7-2 提案
衛生委員会での“提案”を通じて、現場の従業員のニ-ズを制度に盛り込むべき、調査審議を重ねていきましょう。ストレスチェック制度の法律や指針、あるいは『実施マニュアル』などには、1つのやり方が挙げられておりますが、しかし最終的には、各社の実情に沿って、安全衛生委員会で調査審議をした上で、決定するよう促されます。そのため、自社の実情や、現場の状況、あるいは従業員の多用なニ-ズを踏まえ、決めましょう。詳しくは、次節でお伝えします。
7-3 ニーズの反映
衛生委員会での限られた時間の中で、効率よく調査審議を行うように心がけましょう。そのため、【2-2-2. 実務を担う体制をつくろう】の中で触れました、(5)コアメンバ-であらかじめ大枠を決めておきましょう。そして、安全衛生委員も集まる席上で、フルメンバ-に向けて、制度導入に当たっての“提案”を、投げかけていきます。
【step-8】実施規定をつくろう
導入に必要な準備の山場です。それは、衛生委員会での調査審議をふまえ、実施規定をつくることです。実施規定の内容として、大きくは、以下の3つにわけられます。詳しくは、次々節【2-4】でご紹介します。そのためこの項では、その3つのポイントをご説明しますので、まずはイメージをしてください。
なお、厚生労働省から、『ストレスチェック制度実施規定(例)』を参考にしています。そちらも合わせてご準備ください。
8-1 制度の概要と体制づくり
実施規定のコンセプトとして、何より、従業員が安心して取り組める制度・その体制づくりになっているということを明文化しましょう。なぜなら、ストレスチェック制度は従業員に受検義務はないので、会社側の働きかけ次第で、従業員の参加意欲が変わってくるからです。
法律等でも示されている通り、その趣旨を踏まえれば、基本的に全ての従業員が活用しやすい体制をつくることが重要です。
8-2 3つの取り組みとそれぞれのやり方
①ストレスチェック
⇒ 多くの従業員が積極的にストレスチェックを受けられるやり方になっているか?
②医師による面接指導
⇒ 高ストレス者への対応がきちんと整っており、対象者が安心して受けられるやり方になっているか?
③集団分析
⇒ 実施の有無に関わらず、内容は理解しておきましょう。
8-3 管理方法と運用上の諸注意
ストレスチェック制度を実施・運用する上で、情報の取り扱いがきちんとなされる体制になっていますか?情報の取り扱いがきちんと守られ、またストレスチェック制度による不利益な取り扱いが行われない旨などをきちんと明文化して、従業員の不安の軽減に務めましょう。
【step-9】従業員に“しっかり”周知しよう
初めて行われる取り組みなので、従業員にとっては、心の健康づくりを“アンケ-ト”で行うことによる不安・抵抗を感じていたり、その逆に興味を抱いている人もいます。そのため、会社側も従業員側も実際にやってみなければ、わからないことが多くあります。
実施に当たっては、従業員がなるべく積極的に参加できるように、制度の目的やポイントをしっかりと伝えてあげて、取り組みへの理解と協力を広げましょう。
9-1 目的が理解されるよう、わかりやすい言葉を心がける
専門用語はなるべく使わずに、従業員にとってわかりやすく、平易なメッセ-ジを心がけましょう。例えば、産業保健では、当たり前に使われている“一次予防”という言葉も、もしかしたら初めて聴く言葉で、全体をイメ-ジしづらいかもしれません。
自社の全従業員が理解できる言葉を使いましょう。
9-2 義務ではないが、でも基本的には全員参加を目指したい
ストレスチェック制度は、一般健康診断と違い、従業員に受検の義務はありません。しかしながら、ストレスチェック制度の義務化に伴って、心の健康づくりにも力を入れていく旨を伝えましょう。
もちろん、現在、治療中の方などもいることを踏まえた慮り(おもんぱかり)の心づかいは必要です。そのため、特別な事情を抱えた方のプレッシャ-にならないように気をつけながら伝えます。
9-3 活用するためには、正直な回答が必要
自己回答で行うアンケートなので、その結果を自分のために活かすには、何より正直に回答することが重要です。そのためには、会社がそのアンケートをどのように活用したいと考えているか、そしてその体制をどのようにつくっているのかを、従業員からの理解が得られるように、議論を重ね、決めていく必要があります。
ポイントになるのが次の2つ。
①個人情報保護=結果の開示については、従業員の個別の同意が必要なこと
②不利益の禁止=従業員の不利益になるような取り扱いをすることは禁止
つまり、従業員が不安や疑念なく、正直に答えても安心なんだと、感じられる準備をする必要があります。
【step10】ストレスチェック受検日の当日に備えよう
ストレスチェックのやり方は、2パターン(①社内LANを用いたオンライン、②紙媒体)です。それぞれの媒体でのメリットとデメリットはあるかと思います。ただ、多くの社員の方に受検してもらうためには、当日までにいろいろと準備することがあります。
どちらの媒体でやるかでその後の準備が違ってきますが、基本的には、以下の3つは当日までに準備しておく必要があります。
10-1 受検対象者のリストを準備しておく
多くの従業員に受検してもらうためには、受検状況の把握が大事です。オンラインの場合は、管理職の方自身で把握できれば、受検勧奨はしやすいです。
一方、紙媒体や、外部機関に依頼しているのであれば、途中で回収状況を確認しましょう。そして、未提出の方に、受検勧奨をして受検率を高めましょう。
10-2 調査票を準備しておく
初めての取り組みですが、受検日の当日は、スム-ズに導入したいところです。そのため、オンラインの場合は、きちんと稼働するか確認をしておきましょう。紙媒体でやる場合は、きちんと人数分の調査票があるか確認をしておきましょう。
また、紙媒体の場合は、個人情報管理の点から紛失等がないよう十分に気をつけましょう。
10-3 当日のお知らせ文書を準備しておく
ストレスチェック受検の当日には、受検対象者に向けて、あらためてお知らせをしましょう。例えば、朝礼・メ-ル・掲示などを通じて、締切りの中できちんと受検をして、提出することを促しましょう。
そのために、事前に“お知らせ文書”などをつくっておくことなどをお勧めします。受検率を高めるには、従業員の意識を高めるべく、より多くの情報を発信しましょう。