当事者として、専門家として

      2017/02/07

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今朝、電通さんのことを書かせて頂きました。しかし、何度も読み返すほど、自分本位の内容で、とても心苦しいです。
当事者としても専門家としても、電通さんに関係する人たちの立場にたっていません。だからもう一度、向き合ったことで思う所を述べさせてください。

今回、電通さんでまたしても過労で自死された方が出てしまいました。

広告界は生き馬の目を抜くような厳しいビジネスの世界です。
労働時間が長く、そこで働く者にかかるプレッシャーといったら生半可ではありません。

だからこそ、電通さんには『鬼十則』という、第4代吉田秀雄社長が作られた電通マンとしての“仕事の掟”があります。
これがいまもどれだけ影響力を持っているかどうか、それは電通さんを離れて14年になる私には知るよしもありません。

そして、広告界の厳しさは、一方では電通マンだけでなく、広告に携わるすべてのひとたちのひとつの誇りであることもまた事実ではないでしょうか。

広告ビジネスの世界は、勤務時間で働く感覚では務まらない過酷な世界です。だから裁量労働制が認められ、仕事の遂行や時間配分については労働者の裁量にゆだねられている専門職です。

その過酷さ自体が、そこに身を投じている人間にとっては、プライドのひとつであったりするのです。

それはある種、プロスポーツの世界と同じかもしれません。

プロスポーツの世界や、オリンピックを目指すトップアスリートの世界では、激しい競争が繰り広げられ、休んでいたら勝つことも、金メダルを取ることもできません。

逆に休みたかったら、その世界にはいられないのが現実でしょう。
いわば、限られた者たちがしのぎを削る世界です。

このトップスポーツマンの世界と、ある種似通ったところがあるのが広告ビジネスの世界といっても過言ではありません。

つねに高いクオリティが要求され、それに応えられなかったら、容赦なく仕事は別の人間、別の会社に振られてしまう。だから社内競合もあり得る世界。
しかも、その仕事に携わる人間はみな、プロフェッショナルとして高いクオリティを追求しつづけるスタイルを持っています。

だから休んでいる場合ではない、死ぬ気でやらなければならない、そんな不文律が広告ビジネスの戦士の間では当たり前のように漂っています。

このような背景が広告界にはあります。
だから、ただ時短だ、ワークライフバランスだ、といってみても解決に向かいづらいです。

一方、今回電通さんで亡くなられた方は、インターネット関連のお仕事をされていたとのこと。実はインターネットに関わる業種・業界は、日進月歩のイノベーションの世界、その繁忙さゆえに、鬱病など心の病気に冒されている方が多いこともまた事実です。

このような背景があることも踏まえたうえで、考えなければいけないのではないでしょうか。

では、いったいどうしたらいいのか。
それをストレスチェック・コンサルタントの私なりに考えてみたいと思います。

すべてのビジネスの現場でまず大切なこと、それは現状把握ではないでしょうか。

今回の過労による自死のケースで、被害者の方が死にたいと思うまで追い詰められていたことを周囲のひとたちはどれだけ把握し、それに対してケアすることができていたのでしょうか。

いちばん大きな問題はまずそこにあると思うのです。
つまり、チェック機能が働いていたかどうかということです。

ひとつ申し上げておきたいのは、今回の電通さんの事件を、バスやトラックの運転手の方の過労による交通事故と同様に捉えるだけでは、十分ではありません。
言葉は不適切かもしれませんが、「死ぬ気」でやってはいけない仕事と、「死ぬ気」でやらなければいけない仕事があるかもしれません。

ただし、「死ぬ気で頑張る」のと「死んでしまうまで頑張る」のはまったく違います。
当然のことながら、死ぬまでやらなければならない仕事などあってはならないのです。
「死ぬ気」で頑張るひとの存在が現在の電通さんの繁栄を作り上げてきたことを否定するひとはいないでしょう。

ただし、『鬼十則』の時代と、いまの時代では、あらゆる価値感が異なることも当然のことながら無視できない事実です。
いまの時代に、いまの時代のひとたちに、いまの時代の価値感に対応した、新たな仕事の規範づくりも必要なのではないでしょうか。

だからただ、起きてしまったことを批判するだけでは、なんの解決にもなりません。
なぜこの事故が起きてしまったのか、どうしたら今後このような事故が起きないようにできるのか、しかも電通さんが企業としてのパフォーマンスや収益を減らさずにという前提のなかで考えていかなければ、新たな解決策は生まれないのではないでしょうか。

引き続き、考えていきたいと思います。

そこで、解決の一つにあげられることとすれば、「セーフティーネット」です。

つまり、万が一落ちることがあっても、セーフティーネットがあれば、救われます、大きなダメージを受けずに済みます、取り返しのつかないことを防ぐことも可能となりえます。

もし、職場に、会社にそのような「セーフティーネット」のような環境が幾重にも張り巡っているならば、不調の悪化を防ぎ、最悪の事態も防げる一糸になり得るのではないでしょうか。

例えば、SOSが言いやすく受け止めやすい職場のコミュニケーションづくり、自分では解決できなくなった時に気軽に相談できる窓口、ちょっと疲れた時にココロを休められるようなリフレッシュルームなど。

言わば、”ココロの非常口”となるような「セーフティーネット」の環境があれば、過酷な中でも、より安心・安全・前向きに仕事に集中できるのではないでしょうか。

最後にあと一言、思うことがあります。
これも適切に表現しづらいですがそれは、加害者だって被害者という観点もあるということ。もちろん、加害者を擁護し、亡くなられた方を軽んじているという単純な意味ではありません。

おそらく電通の全社員のみなさんは、ご心痛きわまりない状態であるとお察しいたします。きっとその想いは消え去ることがないのではないでしょうか。

でも電通の皆さんは、おそらくその胸の内は外部の人に、決して開けられることはないと思います。今回の辛い事実を抱えた中で、働いていくことになるからです。周りからどんなことを言われても、受けとめることしかできません。かつて私は電通さんの社員として働いていた時がそうでした。

だから、今回、私ができることとしてその電通さんのお気持ちの一端を代弁させて頂きました。ご批判もあるかと存じます。しかし、私の役割は、会社側と当事者側のいずれかに偏ることなく、この事態の具体的な改善に向けた一歩をお伝えすることだと思いました。

ただ、外部の立場で現在の内情は全く分かりかねます。でも、かつての当事者であり、また今は専門家でもある私がその思いを表現することを使命と思い、今回あらためて投稿をさせて頂きました。

しかしながら、冒頭お伝えしました通りに、私は自分本位で見てしまう未熟さがゆえ、ご意見はしっかり賜りながらも、正していきます。
日本で働く人が笑顔で、健康に、安心して働ける職場の実現と、会社の繁栄を願い、微力ですが私の役割を果たせられるよう努めさせてください。
かつてお世話になった思い出の場所から、初志貫徹を誓います。

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 - ストレスチェック・コンサルタント【吉田貴芳】の視点