1.【理解する②】
「ストレスチェック制度」は何で必要になったのか?
現代は、働く人の2人に1人が、仕事に強い不安、
悩みまたはストレスを感じている時代。
一昔前のように、ストレスを単なる精神論では片づけられない状況があります。
なぜなら、ストレスチェック制度が必要になった背景に、次のようなことがあるからです。
ご説明していきます。
➡ 2-1 心の病の増加
『5大疾患』をご存知ですか?
今、日本で患者数が多く、対策の緊急性が迫られ、特に気をつけなければいけない5つの病気のことです。
当初、国が病気の重点対策として、打ち出したのは、3大疾患(『がん』、『脳卒中』、『心臓病』)でした。その後、『糖尿病』に加わり4大疾患、そして2011年には『精神疾患』も含まれ今は、5大疾患となっています。
この図からはわかることは、『精神疾患』の急増と、患者数の多さです。『精神疾患』で医療にかかり治療をを受けている数は、323万人(2008年)。他の4大疾患の倍以上のが、医療にかかっています。
もはや、『精神疾患』は特別な病気ではなく、誰もがなり得る病気と言えます。だから、心の健康や、心の病のことをきちんと理解して、対処する必要があります。
➡ 2-2 労働災害の増加
『労働災害』とは、働く人が仕事によって、怪我や病気になったり、あるいは障がいを負ったり、さらには死亡するといった災害のことを言います。
その中でも、精神疾患による労働災害は2014年には、497件もが認定され過去最大となっています。その認定件数と請求件数は、2000年頃を境に、毎年ほぼ増加している実態があります。
働く人の半分以上の人が、仕事に強いストレスを感じている今、その中でも、仕事のストレスが過度にかかってしまうことによって、心の健康がくずれ、精神疾患を発症します。そして最悪の事態として、自らの命を絶ってしまうという状況が実際に起こっています。
このような労働災害の発生を防ぐべく、国としては、これまでにもいろいろなメンタルヘルス対策への取り組みを、企業に求めてきましたが、義務化ではありませんでした。
しかし、今回のストレスチェック制度は、初めて義務化された取り組みになりました。つまり、これからは、身体の健康管理と同じく、従業員の心の健康管理も、会社が体制をつくって、支援していく必要性があることになりました。
➡ 2-3 民事訴訟の増加
この数年、職場のメンタルヘルス対策が争点とされる訴訟が急増しています。訴訟にまで及ばずとも。今の日本の職場では、不調者の増加に伴って、メンタルヘルスをめぐる問題が増えています。
だから、事業者としては、職場のメンタルヘルスの問題を複雑にして事態を悪化させないように、適切に対応することが求められています。
従業員が長時間勤務によるうつ病を発症し、会社として適切な対応をしていなければ、民事訴訟によって安全配慮義務違反を問われかねません。
万が一そのような事態になってしまったら、会社としては、多額の損害賠償を支払うことになり、その事態が公のことになることによって企業のイメ-ジが著しく低下するといった、会社の経営にも大きなマイナスの影響を受けかねません。
また、従業員が安全・安心・健康に働けるという会社との信頼関係も失いかねません。
会社と従業員全体とのしんこのような訴訟というリスクもあり得るということで、会社としては、従業員が安全安心に働くことができる対策が、ますます重要になってきます。
➡ 2-4 経済活動への影響
国がメンタルヘルス対策に乗り出した背景の一つに、経済活動への影響があげられます。
厚生労働省の試算では、精神疾患による経済損失は2.7兆円(2010年)にのぼると公表されています。一方で、このような損失がなければ、2010年での国内総生産(GDP)を約1.7兆円引き上げられていた効果があったとも。
今後の日本社会では、少子高齢化がますます進み、医療・社会保障費等が増加している状況や、人口減少による労働力不足が懸念されています。
このような社会環境が予測されていることからも、精神疾患によって生じる経済的な損失をなるべく抑える必要があると言われています。
経済的な側面からもメンタルヘルス対策の必要性が伺えます。
➡ 2-5 企業経営への影響
今や、企業の9割で「過去にメンタルヘルスで休職した社員がいる」と言われています。加えて、1000人以上規模の会社では、メンタルヘルス不調の発生率は、100%。
もはや、“心の病”で会社を休まざるを得ないということは、特別なことではありません。
“病気”だからこそ、きちんと療養して、回復を望みたいところです。
ただ、休職した後、実際にどれだけの人が復職できているか?平たく言えば、5割程度です(厚労省調べ)。
つまり、2人に1人しか復帰できていません。
同じ会社で働く仲間が、メンタルヘルス不調になって復職できる割合が5割ということは、逆を言うと、5割の人が離職しているという厳しい現実。
復職率は高いとは言えないのではないでしょうか。
加えて、メンタルヘルス不調で休職になる場合、多くの場合が数カ月間以上の長期療養になることが多いのが実情です。そのため、休職者が発生することによるコストも当然、かかってきます。
その額は、平時の人件費の2倍程度という試算も出ています
(本人への保障、周囲の残業費・代替え要員費等)。
このようにメンタルヘルス不調による休職が発生すると、会社の財産である貴重な人的・資本的資源が失われてしまいます。
また、休職しないまでも、不調を抱えながら仕事を続けることによる生産性の低下も懸念されています(プレゼンティ-ズム)。
経営課題として取り組まなければいけない事態が、このように存在しています。