1.【理解する⑤】
もしも、ストレスチェック制度を行わなかったら?
ストレスチェック制度は、労働安全衛生法に定められた法律なので(安全衛生法第66条の10)、実施しなければ法令違反になります。
また、近年は、メンタルヘルス不調の問題が増加する中で、会社としてやらねばならない取り組みをやっていないことにより、多くの問題が発生する可能性があり、経営的なリスクにも発展しかねません。
ストレスチェック制度を行わないことによるリスクとしては、以下のようなことがあげられます。
➡ 5-1 行政処分
法律では、ストレスチェック制度の実施と、その報告を義務付けています。そのため、報告義務を怠ったという法令違反で、行政指導や行政処分を受ける可能性が発生することが考えられます。
具体的には、労働安全衛生法第52条21項に『検査及び面接指導結果の報告』が義務付けられています。その内容は、50人以上の従業員が働いている会社では、ストレスチェック制度を1年に1回行い、所轄の労働基準監督署に定められた様式を用いて、報告しなければならない、というものです。
今年は、ストレスチェック制度が施行されて初年度に当たるため、実施率が気になるところではあります。しかしながら、初年度であったとしても法律で義務化されたので、それを怠った場合は、労働基準監督署からの行政指導・処分の対象となり得ます。
➡ 5-2 刑事罰
報告義務に関しての罰則規定があります。労働安全衛生法第100条では、労働基準監督署への報告を義務付けているからです。ただし、従業員が50人未満の事業場については、報告義務はありません。そして、この報告義務に対する罰則規定があり、それを怠ったら、50万円以下の罰金が課せられます。(労働安全衛生法第120条5)
このように、実施報告を怠ったことによって労働安全衛生法違反として、罰則が課せられることになり得ます。
➡ 5-3 損害賠償
事業者は、ストレスチェックへの取り組みを行わなければ、損害賠償という法的な責任を負う可能性があり得ます。なぜなら、事業者は、従業員に対して労働契約上で安全配慮義務を負っているからです。
安全配慮義務とは、事業者は従業員が安全・安心・健康に働くことができるよう、必要な配慮を具体的にすることが、労働契約上で義務つけられているものです。そのため、仕事を通じて従業員がメンタルヘルス不調にならないように対応することが、事業者に求められていることになります。
ストレスチェック制度が義務化されているにもかかわらず何も行っていない中で、従業員がメンタルヘルス等の病気になってしまった場合、損害賠償責任というリスクが発生します。もちろん、メンタルヘルス不調になった原因が仕事にあるのでなければ、安全配慮義務に関する損賠賠償の責任ではありません。
➡ 5-4 会的な信用の低下
『ブラック企業』という不名誉な言葉が一般的に使われるようになった昨今、もし、そのようなイメージをもたれてしまっては、社会的な信用を落としかねません。しかし、そのような言葉が一般的に使われているということは、働く人の環境をきちんと整えていない企業が少なからず存在していると言えるでしょう。
そのような労働条件の悪い企業で働く人の心の健康は、決して穏やかではいられないことが多々あるのではないでしょうか。そのような企業では、お客様を含めた関係者からの信用を得ることができないばかりか、信用を失いかけません。人を雇って会社を経営する限り、その人が安全・安心・健康的に働くことが環境や制度を整えるのは、事業者に課せられた最低限の責務です。